西暦2300年。地球は汚染に覆われ、人々は地下で肩を寄せ合って暮らしていた。誰もが気が滅入る毎日を送っていたが、唯一の救いが「夢想機」という仮想現実装置だった。夢想機の中で人々は思い思いの理想を描き、現実逃避するのが習慣になっていた。青年ミドリもまた、夢想機の中で「完璧な自分」を演じていた。理想の自分は、「鋭い知性とたくましい体」を持つ、スーパーヒーローのような男。しかし、ある日ミドリが夢想機のスイッチを押すと、いつもと違う映像が浮かび上がる。そこには「スペースシップ・イデア号」と書かれた謎の宇宙船が漂っていた。自己探求の船旅ミドリが目を覚ますと、そこは夢の中ではなく、宇宙船「イデア号」の中だった。船内には、ユニークな乗組員たちが勢揃いしていた。陽気で三つ目の宇宙人ヨシオ、瞑想にふける賢者アラナ、そしてやたらと饒舌な詩人ユウリ。皆、自分探しの旅に出ているようだ。「君も“完璧な自分”を求めに来たのかい?」と三つ目のヨシオが、どこか馴れ馴れしい声で聞いてくる。「え、まあ、そう…かも…?」ミドリは戸惑いながら答える。「ここに来た者は皆、己の“理想”を追い求めるけど…正直、船に乗ってるうちにどうでもよくなってくるんだよなぁ!」ヨシオがケラケラ笑う。アラナも口元に微笑みを浮かべ、「完璧なんて言葉は幻想だよ」と呟いた。この宇宙船は、各々が“自分探し”をするための試練の星々に停泊する運命にあるらしい。そう聞いたミドリは不安を覚えるが、ヨシオは「ま、笑ってればなんとかなるさ!」と気楽な笑みを浮かべ、彼を強引に連れていった。
試練の星々最初の星に降り立つと、そこには数え切れない鏡が並んでいた。それぞれの鏡には、ミドリの「恐れ」や「恥ずかしい過去」が映し出されていた。たとえば、子供の頃に初恋相手の前で見せたヘンテコなダンスを再現するミドリが鏡の中で踊っているのだ。必死にその鏡から目をそらしつつ、「こんなの見なかったことにしたい…」と顔を覆うミドリ。「ハッハッハ!ずいぶんコミカルだね!」とヨシオが大笑い。アラナもクスリと微笑む。「笑うのは大事なことだよ。過去の失敗も、笑って流せるくらいじゃないと」次に訪れた星は「内なる欲望」の星で、ミドリの隠された願望が具現化された。そこで彼が見たものは、無数のマグロの刺身が空を飛び回る、奇妙な光景だった。「え、なんでこんなに…マグロ!?」と唖然とするミドリに、ユウリが真剣な顔で「これは君の深層心理が欲するものだ、きっと」と神妙に言い放つ。「いや、深層心理でマグロが出てくるの、どう考えてもおかしいでしょ!」とミドリが突っ込むと、今度はアラナも腹を抱えて笑い出した。最終試練と奇跡の瞬間数々の試練を乗り越えたミドリは、最後の星に辿り着く。そこに現れたのは「理想の自分」だった。堂々とした風格、鋭い眼差し、鍛えられた体。「お前には俺のような完璧さは一生手に入らない」と、理想の自分が冷ややかに言い放つ。その言葉に一瞬心が折れそうになるミドリ。しかし、後ろからヨシオが大声で応援する。「おい!理想なんか蹴っ飛ばしてやれ!」アラナも「恐れず進むんだ。君は君のままでいい」と真摯な目で語りかけ、ユウリも「完璧な人間なんて面白くないよ」とウィンクを送る。勇気をもらったミドリは、「僕は僕だ!完璧じゃなくても、このままでいい!」と叫んだ。すると、理想の姿が笑顔を浮かべて「よくやった」と頷き、虹色の光となって消えていった。帰還と未来への希望船が地球へ戻る途中、ミドリは仲間たちと肩を組み、船内でささやかなパーティーを開いた。皆、思い思いの理想を手放し、自分を受け入れたことで、どこか軽やかになっている。ヨシオは乾杯の音頭を取り、「マグロの王、ミドリに乾杯!」と笑いながらジョッキを掲げた。地上に戻ると、現実は相変わらずだ。地下の生活、先の見えない未来…それでも、ミドリはどこか自信に満ちた表情で言った。「また苦しいこともあるだろうけど、俺、やれる気がする」そして、ふと空を見上げた彼の目には、地球にかかった一筋の虹が映っていた。奇跡のようなその光景を前に、彼はそっと呟いた。「ありがとう、イデア号。また会おうな!」一緒に旅した仲間たちと、ミドリは新たな未来への一歩を踏み出した。その歩みは、笑いと希望に満ちた、地上に続く道だった。